世界一きれいな手をした少年

うちの会社は「ホノカ社」という、とってもユルい社名なのですが、その名前どおり、仕事のペースも、社の雰囲気も、のんびり、ほんわかしています。
(けれど、ご注文の商品を送るのは、やたら早いと評判です〜。)

それは、たぶん、自宅が事務所で、子育てをしながら仕事をしてきたせいかもしません。子どものペースで過ごし、急がない仕事のスタイルが、僕には、ちょうど良かったのでした。

いま思えば、こういうやり方を選択したきっかけのような体験が、大学生の頃にありました。

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僕は、脳性麻痺筋ジストロフィーなど、比較的重度の障害のある小中学生を対象とした学童保育の団体で、学生ボランティアをしていました。子どもたちは、みな、車イスです。しゃべることができる子は半分くらい、それも片言でした。

福祉会館の一室で、その子たちと学生のボランティアが一日過ごすのですが、「今日は‥‥をしました」と言えるようなことは、ほとんどありません。

とにかく、ゆったり、のんびりしています。外出の準備をして出かけるまでに一時間はかかるほどで、話をするといっても、最初はじっとしている子どもたちに何を言っていいのかもわからず、途方に暮れる学生がほとんどでした。

ある日のこと、
「○○くんの手って、きれいよね〜。世界一だよ。天使の手みたい」
と、新人ボランティアの女の子が、その子の手に触れていました。
彼女は、勘のよい人で、何日かすると、その“理由”に、気付いたようでした。

「中村さん、○○くんの手がきれいなのは、生まれてから一度も、手を使ったことが、ないからなんですね」

その子は、動くことも、しゃべることもありません。でも、一緒にいると、なんだか見守られているような、ずっとそばにいたくなるような気持ちになってくると、学生たちはみな言っていました。
つまり、この子は、もっとも“人間くさい”魅力をもった少年だったのです。

一年ほどたった頃、○○くん担当の彼女は、驚くべきことに気付きました。
じつは、○○くんは、学生たちが話すような大人の話も全部理解している、というのです。微妙な表情の変化なので、彼女にしかわからないのですが、ちゃんと、みなと同じタイミングで笑って、うなづいているのだと。
思い切って、○○くんの母親に尋ねてみると、やっぱり、
「ええ、なんでもわかってますよ」
と、返事が返ってきたのでした。

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我が家では、よく、家族でいるとき、天使のはなしをします。天使とは、どんなものかと子どもに話すとき、僕がなんとなくイメージするのは、学生時代に出会ったあの子どもたちでした。

ちなみに、ホノカ社の夢は、ひらすら自由で、オールOKの小さな保育園をつくることです。