イラン航空の機内にて‥‥

ウルルン滞在記ではありませんが、よく外国へいくと、かつて日本にもあった、温かい人と人とのふれあいを体験した、という声を聞きます。

僕がそれをまじまじと実感したのは、十年ほど前、成田から北京を経由してテヘランへと向かうイラン航空の機内でした。

着陸一時間ほど前、となりにいたイラン人の女性が突然、呼吸困難になったのです。スチュワーデスさんたちが、手際よく彼女に酸素マスクをとりつけ、前のほうへ運んでいきます。

その女性のとなりには、5歳くらいの男の子がいたのですが、突然母親が苦しみ出したと思えば、どこかへ連れていかれてしまったたために、あぜんと口をあけているだけでした。

しかし、その直後、機内のイラン人たちが、その子のまわりに集まりだし、「だいじょうぶよ」「いい子ねえ」というような声をかけては抱き上げているのです。彼らには「あの人が世話をしているのから私はいいわ」という発想などどこにもなく、飛行機が傾いてしまうのではないかと思うほど、大人たちみんなが、一人の子どもの不安をとりのぞこうと力を尽くしているのです。

着陸直前には、母親が戻ってきました。機内は何事もなかったように静まりかえります。このとき、僕は、中国大陸を横断する長い旅に向かおうとしていたのですが、この機内での出来事をきっかけに、それまでの不安と緊張が一気に吹っ飛んだものでした。

旅先で困ったときには必ず助けてくれる人が現れる、という事は、その後旅を続けていく中で、僕の合い言葉になっていきました。