おなかごし?の会話

私たち夫婦は、できるかぎり子どもとの時間を大切にすることをポリシーとしていますが、その原点ともいえる体験がこれです。じつに、なぜだか長男こうきの生まれる前のこと‥‥。

6年前の3月、つめたい風が吹き荒れていた夜のこと。妻ますみが眠ったまま、ウーウーと、うなっていました。身体をさすって名前を呼んでも、ぐったり横になっているだけで返事がありません。やがて、眠ったまま、

「アタマ、いたいの‥‥」

と、言いだしました。

「大丈夫か?」と、僕がつよく身体をゆすっても、ますみは目を閉じているだけです。それでもまだ、

「いたいよ〜、オト〜サン」

と、助けを求めてきたのですが、そのとき僕は、あれっ、と思ったのでした。というのも「お父さん」と呼ばれたのは、生まれて初めてだったからです。

「ここか、ここにいるのか?」

とますみのお腹をさすると、また声がしました。ようやく僕は、いましゃべっているのは、妻ではなく、もうすぐお腹の中の赤ん坊だとわかったのです。

いま考えても不思議なことなのですが、こうして僕は、生まれる直前の子どもと、おなかごし?に会話することになったのでした。あのとき、息子と不思議な状況で会話したことがあったから、子どもと話すという時間を大切にしてこれたような気がしています。

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↑この出来事をきっかけに、書きはじめた物語です。