メル友はマフィア

以前、ワタシネットといういろんな人の自分史や手記を集めたサイトを運営していた頃、いろんな人とメールでやりとりしていました。まだインターネット自体が珍しかった頃ゆえ、びっくりするような超有名人からも、直接メールがきたりしたものです。中でも、忘れがたいのは、東欧でマフィアの組織に加入したという日本人青年と“メル友”になったことでした。

ある日、「私は現役マフィアだ」と主張する人物のサイトを見つけました。そこには、世界各地で行った様々な悪事や、東欧に渡った経緯がたんたんと連ねてあり、マフィアファミリーとの写真や、銃器の写真も載っていました。

彼の書いたエッセイや自叙伝は、ずば抜けて面白く、だめもとでリンク依頼をすると、本人から、メールが届きました。出身県が同じで、年齢も近いことから、僕に親近感をいだいて、思わず返事をしたとのことでした。

それから、毎日のようにメールをやりとりすることになりました。当時、僕は、1歳のこどもがいるというのに、会社を辞め、まったく収入がない頃で、その時一生懸命になっていたのはマフィアとのメール交換というずいぶんな浮世離れ具合でした。
ただ、メールから察するに、彼は人なつっこい、礼儀正しい人間で、同じ土地で育った者独特の共通点が、僕らにはありました。

彼は、日本語の活字への飢えから、ホームページをつくり始めたと言っていました。しかし、その文章からは、自分の行いに対する懺悔や、なんとか更正したい、人を愛したいという思いが痛いほどに感じられました。

数ヶ月後、「やばいことになって‥‥」という短いメールを最後に、サイトが閉鎖されていました。僕らのメールのやりとりもそれで、ぱったり途絶え、以来、彼の消息はわかりません。

時を同じくして、といっていいのかどうか、僕は、これを機会に、子連れプーターロー生活に一区切りつけようと、ハローワークで仕事を見つけ、働き始めていきました。
そういえば、彼のサイトは、「人間の屑・マフィアの記録」という名前でした。