起死回生のアイディア「僕はここにいる」

二十歳前後の頃なので、もう二十年近く前になるのですが、友人との雑談でさらりと聞いた、誰のことかもわからないある話を、いまでもよく覚えています。
とある大学生の男子が、人通りの多い街の真ん中で、手作りのビラを配っていたという話です。
人を選ぶわけでもなく、人の視線を気にすることもなく、必死に、何百枚もあるA4サイズの紙を、通り過ぎる人に渡し続けた男がいたとか。
そのビラには、大きな文字で、ただ、自分の名前だけが書かれていたそうです。
自らの名だけのビラを、その大学生がどんな意図で配っていたのか、なにかの実験だったのか、それとも罰ゲームか、ひょっとしたら映画か何かの真似だったのか、聞いた覚えはないので、誰も理由までは知らなかったのでしょう。
その様子を想像すれば、たしかに、おかしなビラ配りではあったでしょうが、もっと勝手な想像をさせてもらうならば、消え入りそうになる自分をなんとか成り立たせるための、起死回生のアイディア、「僕はここにいる」という証のための行動だったのではないかと思うのです。
まだ、ブログもツイッターもなかった頃の話です。
その会ったこともない大学生の行動を思い出すたび、不思議と勇気が湧いてくるのは、なぜでしょう。