本を編む

一人の画家の無数の作品から一冊の本を編集する、という、編集者にとって幸福な仕事にこの夏、取り組んでいました。
その本とは、すでに本メルマガでも何度か紹介させて頂いてきた、天使の画家アンディ・レイキ氏の作品集です。
アメリカ・サンディエゴに住んでいたアンディは、26歳まで絵を習ったことも描いたこともほとんどなかった、自動車のセールスマンだったそうです。
それが、1986年の大晦日臨死体験の際に7体の天使に命を救われ、どうしてもその天使を描きたいと思うようになり、年収数千万の仕事を辞め、何の宛もない中で、作家生活に入ります。
彼が残した1万点あまりの作品を見ていくと、霊気溢れる独特の天使の数々に、ただただ驚かされます。世界中の多くの人がその絵と出会って癒され、自らの使命へと導かれていったという体験談が多いのも、うなづけます。
このようなアートは、ある種のチャネリング状態で、まるで手が動かされるように描いているものだと、僕は思っていました。特別な人が特別に描いているものだと。
ところが、今回の画集制作のために、これまで非公開の作品を年代順に見ていくと、それがまったく逆であったことに気づかれました。
無数の作品から見えたのは、天使を絵にするための、十年におよぶ、試行錯誤の記録でした。
最初は、ただの十字架のような形だったものが、年を重ねるごとに、だんだんと天使のように見え出し、ついにはゆうゆうと宇宙を飛んでいるように見えるものになっていったのです。
この独特の天使を見続けて、最終的に僕の胸に残ったのは、絵の美しさというより、ひょっとしたら何か自分にも描けるのではないか、絵ではなくとも、自分も何かできるのではないか、というワクワク感でした。
アンディ・レイキ氏は、2012年の10月に亡くなりました。
一冊の画集を編集し終えて、彼のほんとうの偉業とは、天使の絵を描き残したことではなく、ただ描き続けたことだったのではないかとも思うのでした。