合唱コンクールで‥‥

 中学から高校と、クラス対抗の合唱コンクールがあり、目立ちたがり屋の僕は、毎年、自ら進んで、誰もがやりたがらない指揮者に名乗りをあげていました。

 というのも、なぜか「自分には指揮者だった前世がある」と思い込んで理屈なき強さを発揮することができ、音楽の先生も驚くほどにクラスの歌声をまとめあげ、それなりの結果をだしては調子にのっていたものでした。

 それが高校3年の最後の合唱コンクールでは、まったく思うようにいかず、練習自体なりたたないまま、本番3日前を迎え、僕はひとり、ピエロのように腕を振っていました。

 進学校であったため、数ヶ月後には大学受験をひかえており、みんな何の特にもならない合唱などにまじめに取り組むわけがなかったのです。学校内のコンクールで勝ったところで、クラスがひとつになって歌い上げたところで、まったく意味がないと思うのも当然のことでした。

 とはいえ、このまま放課後の練習時間もむなしくすぎていくのは青春がなさすぎる、と思い詰め、このまま四拍子で腕をふっていたのでは何も変わらなかったので、いつしか僕は、足もいっしょに動かしていました。
 
 それは、たぶんピエロもやらないくらいのぶざまな動きだったのでしょうが、教室に失笑が広がり、ふと気づけば、奇跡のように、みんな歌い出してくれたのです。

 本番では、ぎりぎり予選通過で、本戦は順位がつかず、という結果でしたが、その日クラス全員が、なんだか納得したような表情をしており、また黙々と受験勉強へと戻っていったのを覚えています。

 あのとき僕が、まるであやつり人形のように、不思議な動きをしたおかげで、状況ががらりとかわったのは確かなこと。僕にあの動きをさせたのは、ひょっとして、指揮者であった前世の僕‥‥?  いや、きっと、大道芸人の前世が‥‥? と、思索をめぐらせながら、秋の夜長を楽しんでいます。