誰も聴いたことのないメロディ

高校生のころ、初めて買ったCDは、柄でもなく、クラシック音楽でした。いまでもクラシックを聴くのが、唯一といえるほどの趣味で、特にお気に入りはベートーヴェンやチャイコスフキーの交響曲です。

「第九」や「運命」、「悲愴」といった定番は、もちろん聴くのですが、マイベストはいまだに、初めて買ったCDである「チャイコスフキーの交響曲第二番」です。

この曲は、テレビから流れてきたり、ビデオ屋さんの千円均一のコーナーに並ぶこともない、けっこうマイナーな盤なのですが、そのせいか高校生だった当時は、これは自分のためだけに作曲され、まだ自分しか聴いたことのないものだとすら錯覚してしまうのです。

いまでも、交響曲第二番のCDをかけるときだけは、「この美しいメロディは、自分の耳にしか響いたことがないのだ」と思い込みつつ、至福の時に浸るのです。

高校生だった当時、流行の音楽になじめず、ちょっとかっこつけのつもりで何だかもよくわからないまま不意に買ったCDと、この先の人生を共にしていくのだと思うと、面白いことなんてひとつもないと思っていたあの頃も、けっこう楽しんで生きていたのかもしれないと、再発見した次第なのです。