部屋の中から生まれるもの

もう15年以上、「物語」をつくる生活を続けています。原稿用紙にして100枚ほど、できあがるのは、2、3年に一度ほどなので「書く」というより、ひたすら「考える」「待っている」という感じがしっくりいきます。

「これだけはやっておきたい」ということが誰にもあると思います。僕にとっては、「ずっと残るような物語をつくること」になりますが、大学時代の学園祭で、ちょっと不思議な「これだけはやっておきたいこと」を見た記憶があります。

学園祭では、いつも講義をしている部屋で、学生が自由にイベントやギャラリーを開催して良いことになっているのですが、僕のサークルが借りていたとなりの部屋では、30歳くらいの女性の学生がたった一人で使用するらしく、か細い腕で米俵のようなものを持ちこみ、ふっーと息をついていました。

聞くと、その中身は土で「講義室の床一面に土をしきつめる」アートをするというのです。イスと机もすべてとっぱらってありました。働きながら大学に通っている方のようで、学園祭前夜からようやく準備を始めることができ、これから大学の裏山との往復を始めるとか。

ついつい気になり、様子を見ていると、すべて土を敷き詰める頃には、学園祭が終わっていそうな気配がしたので、僕らのグループは、自分たちのイベント準備をほったらかし、いつしか、その土を運ぶ作業を総出で手伝っていました。

夜中の2時くらいに完了し、一面、土が敷き詰められた室内を、まるで美しい景色を前にしたように、澄んだ気持ちで眺めていました。

最近、「スペースクリアリング」(風水整理術)に関する広告物の作成などを担当しているのですが、その際、まずまっさきに思い出したのが、あのときの土が敷き詰められた「部屋の景色」です。

じつに“一度、土に戻す”究極の空間浄化法ではないかと思います。もちろん、誰もけっして実行できない、秘技ではあります。