驚くほどスムーズに、一人一人の…

4年ほど前、大阪の繁華街ミナミのド真中にある商店街の販売促進の仕事に携わっていました。商店街で配るフリーペーパーで、百以上ある加盟店のスタッフの紹介をずらりと載せるという企画があり、商店街の北から南へ、カメラとメモ帳を手に駆けまわっていました。
店員さん一人ずつのアピール文を用意するために取材するのですが、帰ってくる言葉といえば「笑顔が自慢」「ていねいな接客」「笑顔なら負けません」「やっぱり笑顔」という具合。これでは大阪の名物商店街の名がすたるということで、取材を中断すると、喫茶店にこもって作戦をねりました。
とはいえ、考えても良いアイディアが浮かぶことなどなく、しょうがないので、最初に取材したドラックストアに戻り、今度はただずっと、その男性店員さんの後ろで立っていることにしました。
接客の合間に世間話などして、お弁当を食べている横にもずっといたりしていると、その店員さんが毎日三食、手作りのごはんを作っていることがわかりました。

「ここで働きだしてからですよ。クスリを売ってるからこそ、食事をしっかりしないと、と思って‥‥」
最初、「笑顔が自慢」としか言わなかった彼の、ドラッグストアの店員としてのプロ意識が見えました。一人の取材に数時間もかかってしまいましたが、フリーペーパーに掲載するPR文は、最初とはまるで違うものになりました。
その後の取材活動では、驚くほどスムーズに、一人一人の、「キャラ立ち」ポイントを見つけることができました。自分でもびっくりだったのは、一人にかかる時間です。
「はじめまして。では、笑顔以外で、あなたの‥‥」と切りだし、ほんの数分で、その店員さんの個性や一芸、仕事への情熱を聞き取ることができるようになっていました。
人の良さや面白さを見つけるのは、視点の切り替えひとつなのだと実感した、ある日の仕事の一幕でした。
この経験をして以来、僕は、近所のちょっとした買い物でも、お店に行くのが、楽しみになっています。