「鎮魂のソナタ」1番&2番

CDで、そのピアノ演奏を初めて聴いたとき、「ピアノを壊す気だ」と、思いました。

もちろん、ピアノを壊すことが目的というわけではなく、ピアニストの腕力による力づくでもなく。

音そのものの<エネルギー>によって、ピアノがバラバラになるのでは‥‥、と本気でびびるほどの、圧倒的な破壊力が耳に届いてくる、という音楽体験でした。

僕自身、趣味の範囲でクラシックを聴いてきた程度ではありますが、たった一台のピアノの鍵盤の音が、こんなにも膨大なエネルギーとして感じられたのは、はじめてでした。

その曲は、3・11震災の鎮魂のために作られたものであり、という未曾有の破壊に対して、それ以上の破壊で応えようとしているのではないか、そんな印象すらありました。

奏者は、韓国人のソン・ヨルムさん。各国の楽団からのオファーが絶えない、新進気鋭のピアニストです。

また、演奏されたホールの反響や録音も文句なく、すばらしいものでした。

この、すさまじい演奏が完璧な録音によって支えられた、幸福な作品とは、じつは、みなさんご存じ!?佐村河内氏&新垣氏の「鎮魂のソナタ」1番&2番です。

ちなみに、記者会見での発言を拾えば、このピアノ演奏の録音テープを、佐村河内氏が、本当の作曲者である新垣氏に聴かせたところ、その圧倒的な迫力に、ただ驚いたといいます。

この<いわくつき>となった曲が、これほどの演奏と録音で残されていたのはなぜか、僕は騒動から1ヶ月以上たった今でも、考えているのです。

もちろん、ウソはいけないことです。けれど、もし音楽の神様といえる存在がいるとすれば(いえ、きっといるはず)、その神様は、誰がつくったとか、そういうことにはまったく興味がないのかもしれません。

たぶん、音楽の神様こそが、神様ゆえに、音楽をただ音楽として受け入れて、それに関わる人をサポートしているのではないか、と、このCDをかけるたびに思うのです。

けっして耳障りのよい曲ではないですし、すでに販売停止になっているので、お勧めしずらいものではありますが、何年か何十年か後でもいいので、この曲とこの演奏が、正当な評価のもと、もう一度、日の目を浴びることを願ってやみません。