人生はノープロブレム

ノープロブレム(問題ないよ)。この言葉に、何度救われたことかしれません。これは、僕の口癖でもあり、インド人の口癖でもあります。ご存知の方も多いと思いますが、インドを旅すると、物売り、ホテルマン、タクシー運転手と、この「ノープロブレム」をいやになるほど耳にします。

7年前、僕が人身売買ルートをさぐろうとインドマフィアの巣窟に潜りこむというむちゃくちゃな取材をしていたころ。怖い人たちに囲まれて絶体絶命!というときもガイドの男は唇を震わせながら「ノープロブレム」と言ってきました。

彼は、ガイドといってもその道のプロでもなんでもなく、ただ車の運転ができるというだけで僕に雇われた普通のおっさんでした。このとき僕は、インド人がつかう「ノープロブレム」とは、外国人観光客への常套句ではなく、彼らのものの考え方に深く根ざした言葉であることに気づいたのでした。

こうして僕も、インド化してゆき、取材中にやばい状況におちいったとき、おのずとこの言葉を口にするようになり、いまでは、仕事、家庭、育児とあらゆる場面で、一日何度もついてでてくる口癖となったのでした。

言葉とは、自分と、自分の置かれている状況を肯定するための装置であり、魔法そのものなのかもしません。言葉にするだけで、ときどき、いえ、かなりの場合で、それが叶ようです。

おかげさまで、僕はいつだってノープロブレムなのです。